腫瘍血管内遺伝子治療
2000年1月、腫瘍生物学者ロバートワインバーグとダグラスハナハンは、20年あまりの研究でもたらされた数々の発見から、がんの驚くほどの多様性の下に習性と遺伝子と経路が渦巻いていることに気付き、その法則を『がんの特徴』という題名の論文として発表しました。それは、正常細胞から悪性細胞への形質転換を支配する法則について論じており、過去数十年の研究によって、おそらく全てのタイプのヒトのがんに共通すると思われる、分子的、生物学的、細胞学的な形質、獲得能力の幾つかを解明し100種類以上ある腫瘍のタイプとサブタイプの中心的な挙動を説明しています。そして、彼らは途方もない広がりを持つ法則を引き出したかというとそうではなく、その答えは6つの法則だったのです。
がん細胞の遺伝型の膨大な一覧表は、6つの本質的な細胞生理学的変化の現れであり、その6つの変化が、集合的に悪性増殖を司っているということを論じています。
その6つのがん細胞の特徴とは、
1)増殖シグナルの自己充足
rasやmycなどのがん遺伝子の活性化によってがん細胞は自律増殖能力(病的分裂能力)を獲得する
2)増殖抑制(抗増殖)シグナルへの不応答
がん細胞は、細胞増殖を抑制するRbなどのがん抑制遺伝子を不活化する
3)プログラムの細胞死(アポトーシスの回避)
がん細胞は、細胞死を可能にする遺伝子や経路を抑制し不活化する
4)無制限な複製力
がん細胞は、いくつもの世代を経たあとも不死でいられる為の特別な遺伝子経路を活性化する
5)持続的な血管新生
がん細胞は自らを養う為の血液及び血管の供給を引き出す能力を獲得する(腫瘍血管新生)
6)組織への浸潤と転移
がん細胞は他臓器に転移して組織に浸潤し、それらの臓器にコローニーを形成する能力を獲得し、その結果、全身に転移する
この6つのがん細胞の特徴を制御することが遺伝子治療方法のテーマとなります。
既に世界は数々のがん抑制遺伝子はクローニングされています。
これらの遺伝子をいかに腫瘍に到達させるかの研究、いわゆるDDS(ドラッグデリバリーシステム)の研究がさかんに行われ遺伝子を輸送する方法論としての運び屋(ベクター)の開発は病原性を取り除いたウィルスといったものから高分子ミセルといった非ウィルス型のような様々な方式が 現在採用されています。これらの遺伝子治療用のベクターが安全に投与される方法も世界中で様々な形で臨床研究されています。
一般社団法人国際遺伝子免疫薬学会の分科会先端医療臨床研究会では、米国でクローニングされた幾つかのがん抑制遺伝子による臨床研究を支援しております。