自己がん抗原刺激型CTL療法
AKT-DC(Activated Killer T cells and dendritic cellls)
手術後の再発予防にエビデンスのある理想的な治療法
AKT-DC療法は、2012年まで千葉県がんセンター木村秀樹先生のもとで国の認めた先進医療として臨床研究され、がん治療として提供されてきました。
肺がんの根治手術を施された患者さんに対し、手術時に切除した所属リンパ節を用いて自己のリンパ球を増殖・活性化させ、強力にCTL (細胞傷害性Tリンパ球)を誘導する治療法です。
がん所属リンパ節には患者さん自身の複数のがん抗原を提示しているDC(樹状細胞)が自然に存在しており、抗CD3抗体の刺激なしにこれらの抗原提示によって増殖してくるキラーT細胞を中心に治療に用い、これにより増殖したリンパ球の多くがCTLとして活性化されます。術後の再発予防として理想的なテーラーメイド型の個別化免疫細胞療法と言えるでしょう。
免疫細胞療法とは
患者さんご自身の免疫細胞を活性化させる
私たちの体内では、健康な人でも常にがん細胞が発生していると考えられています。しかし、がん細胞を攻撃する免疫細胞も存在しているため、すぐにはがんになりません。様々な理由でがん細胞と免疫(※1)細胞のバランスが崩れ、がん細胞の増殖が上回ったときにがんという病気になります。そこで、免疫細胞を人工的に増殖し、その働きを強化することでがん細胞を抑え込むというのが、がん免疫細胞療法です。
患者さんご自身の血液から免疫細胞を取り出し、数を大量に増やし、攻撃する働きを強化して患者さんの体に戻します。つまり、“自分で治ろうとする力”を活用するという方法です。
副作用がほとんどない
患者さんご自身の細胞を用いるため、副作用はほとんどありません。まれに発熱やアレルギー症状がみられる程度で、生活の質(Quality of Life:QOL)を維持しながら治療を受けることができます。抗がん剤や放射線治療との併用で相乗効果が期待できます。
副作用がほとんどない
再発・転移の予防に効果があると認められるエビデンス(医学的根拠に基づく治療)がある治療です。臨床試験に基づいたデータでは手術後の再発予防効果が示されています。また、免疫力強化という点で、発がん予防としての期待も高まります。
※1 免疫とは
「自分と違う異物」を攻撃し、排除しようとする人間の体の防御システム。たとえば、ウィルスや細菌など病気の原因になる微生物(=病原体)が体内に侵入したときも、体は「自分と違うものが入り込んだ」と判断し、排除しようとします。
免疫細胞療法の有効性
がん再発予防における免疫細胞療法の効果と実際
Cancer Immunology Immunotherapy 誌、2014年、DOI 10.1007/s00262-014-1613-0
千葉県済生会習志野病院木村秀樹先生等による論文より
2007年4月から2012年7月に行った初発肺がん手術556例中、適格(ステージ1B~IV、非小細胞がん、76歳未満、PS 0または1 等)を満たす103例を対象とし、統計は、最終的に無作為で分別したグループA(免疫療法あり、50例)とグループB(免疫療法なし、51例)で比較することで行った。
いずれのグループも標準治療として、プラチナ製剤による化学療法は行っている。
免疫療法は自己のがん所属リンパ節から、「AKT-DC」と称した樹状細胞(dendritic cell: DC)と活性化キラーT細胞(activated killer T-cell: AKT)を共に培養したものを利用している。化学療法は4コース行い、免疫療法は10-14コース行った。
図1 は全生存率を示しており、5年生存率ではグループA が81.4%、グループB が48.3% となっている。この両グループ間には有意差が認められ(log-rank testでp=0.0005、Wilcoxon testでp=0.0005)、免疫細胞療法を受けた患者に明らかな有効性が確認できている。またハザード率から、グループAは1/0.229で4.36倍の5年生存率を示している。
図2 は無再発生存率であり、5年生存率ではグループA が56.8%、グループBが26.2% となっている。この両グループ間には有意差が認められ(log-rank testでp=0.0020、Wilcoxon testでp=0.0027)、免疫細胞療法を受けた患者に明らかな有効性が確認できている。またハザード率から、グループAは1/0.423で2.36倍の5年生存率を示している。
5年生存率が4倍以上に
【HR=0.229(HazardRatio)の意味】
治療しない群の生存率を1とすると治療した群の生存率は、1/0.229=4.36倍となります。たとえば治療しない群の5年生存率が10%とした場合、治療した群の成績は43.6%になる計算です。無再発生存率でも1/0.423=2.36倍になることを意味しています。
肺がん(Ⅲ期)根治手術後抗がん剤併用による再発防止